仙台高等裁判所 昭和24年(を)508号 判決 1949年12月21日
被告人
武石武
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役六月に処する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
同第二点にそいて、
案ずるに、本件第二回公判期日において弁護人は、本件犯行当時被告人は妻や父の病氣に依り医療費その他に出費が多かつたのに拘らず、畏年軍隊に属していた爲手職とてもなく、たまたま手を出した石鹸の商売では穴をあけた爲、一家の生計費その他の切り廻しに如何とも手の施しようがないので、遂に本件の如き犯行を重ねるに至つたのであるから、緊急窃盜の名を以て無罪の判決あつて然るべきであると主張していることは記録上明である。してみれば右の主張は刑法第三十七條に所謂自己又は他人の生命に対する現在の危難を避くる爲己むことを得ざるに出でた行爲であるといふに在ると認められるから、刑事訴訟法第三百三十五條第二項に所謂法律上犯罪の成立を妨げる理由たる事実上の主張があつたものと謂はなければならない。然るに原判決にはこれに対する判断を示した形跡が認められないから、この点において原判決は破棄を免れない。